ジャカルタ雑感
    ジャカルタは赤道付近の東西約5千百kmにまたがる地域に点在する1万数千島からなるインドネシア共和国の首都で、ジャワ島に位置する。観光地で有名なバリ島もその一角だ。人口は2億3千万を越え、その大多数はイスラム教徒で、世界最大のイスラム国家である。
 
わずか1週間のジャカルタ滞在で、しかも余りウロウロできず、詳しいことは分からないが、私が垣間見たジャカルタは、人口、都市の規模、経済的見地からして、将来の可能性を秘めた世界有数の大都市であることは間違いなく、独断と偏見に満ちたその印象を簡単にまとめてみた。

 
ベトナム、タイなどと同様、首都圏は人、単車、自動車の洪水で、どの道路も渋滞、渋
滞。アパートからわずか5kmほどの動物園に行くのに1時間半以上かかったのには参っ
た。実は動物園が混んでいて、入り口まで大渋滞だったのだが、とても見学する気になれずそのまま引き返した。

 
正月で高速道路は少し空いていると言っていたが、場所によっては長い渋滞が続き、車の間を物売りがウロウロしているのには驚いた。こういった状況だから、例え自家用車があっても気楽に観光や買い物へ行くのは難しい。交通は日本と同じく右側通行で、信号はよほど大きな交叉点以外にはなく非常に少ない。ただ市内の路線バスは道の中央に一段高い専用道路があり、比較的スムースに走っているようであった。幸い単車や車の約9割が新しい日本製であるせいか、排気ガスは中国、タイやベトナムよりずっとマシであるように感じた。
 
市民の主な移動手段は単車で、一台に一家が5人乗っているのはザラだ。その他乗り合い三輪、どこでも乗り降り自由な乗り合い自動車、路線バス、電車など現地人には多くの移動手段の選択肢があるようだが、言葉の通じない外国人にはとても利用できない。
 
   
   バス専用道路 一家5人が乗る単車   
   日本で運転できても、ジャカルタで運転するにはよほど慣れないと非常に難しい。次男宅では運転手を雇っているが、休日のちょっとした買い物などは次男がしている。信号がほとんどないから、皆阿吽の呼吸でハンドルを切っている。これができないと運転できないし、歩いて道を横断するのも難しい。急いで走って横断したり、急ハンドルは最も危険だ。道を横断する時にはゆっくり車が来る方向を見ながら渡ると、車のほうが人を避けてくれる。車で右折する時にも徐行しながらゆっくりハンドルを切って行くと、対向車の車がギリギリで止まってくれる。この時の阿吽の呼吸が難しいのだ。
  
ジャカルタでは人がおっとりしているのか余り警笛を鳴らさないので、ベトナムや中国の街ほどやかましくはない。最もうるさいのはコーランの祈りの時間だ。毎朝コーランの音で目が覚める。どうしてあんなに拡声器のボリュームを上げる必要があるのか理解に苦しむ。住民の大多数がイスラム教徒だから特に問題にならないのだろうが、ちょっとひど過ぎる騒音だ。
 プールや海でも女性は肌を布で隠していて、ちょっと異常な感じがする。ホテルの部屋には聖地の方向を示す矢印が天井に付いていた。ジャカルはまさにイスラム都市である。

 
一般人の家はバラック建ての簡素なもので、庭には大抵鶏が放し飼いにされている。しかし都市周辺には高層アパートも沢山建ちつつある。高級住宅街には立派な家が並んでいる
が、大抵は外国人が住んでいる。日本の企業マンや商社マンの多くは、設備が整った高級アパートに住んでいる。

 
 次男の住んでいる所もそんな一つで、二十数階建てのアパートが3棟建ち、3LDKで、他に広いシャワー室兼トイレが二部屋、その他メード用の小部屋とトイレがある。家具付きで月2400ドルというから結構高い。他に倍ほど広い高級アパートもあるらしいく、日本の大手企業のエライさん達が住んでいるそうだ。アパートの敷地内は綺麗な庭園となっており、中には立派なプールやバスケット・テニスコートも完備している。警備も厳しく住人しか入れないから、静かで空いており、安全で子供たちも安心して遊ぶことができる。一種の閉鎖社会だから日本人同士の結束はむしろ本国よりも強い。いろいろな面でお互いに助けあっているようだ。 
 
   
   アパートのプール 部屋の天井に書かれたイスラム教の聖地を示す矢印   
  2011年の資料では、インドネシアでは1日2ドル以下で暮らす貧困層が国民の約半数を占めるという。したがって人件費は安いから、アパートや大邸宅には必ずガードマン、ドアーマン、庭師や掃除婦などが大勢おり、実に清潔で快適で、何時も数台のタクシーが門前に待機しており、まるでホテルのような感じだ。一階にはちょっとした食堂もあり、結構利用されているようだ。次男宅でも午前中メードが来て掃除・洗濯をしている。毎日運転手付きの車の送り迎えで、日本では社長並みの感じだが、向うではそれが当たり前なのだそうだ。というより、よほど慣れないと運転が難しいのだ。
 
通常の買い物は近くに歩いて行ける現地スーパーがあり、少し離れて日本食専門店もあ
る。したがって日本の食材にほとんど不自由はないが、価格が日本の数倍するのでそう簡単には手が出ないらしい。

 
電気、ガスは特に問題はないが、水道は洗濯、口や手を洗うことはできるが飲めない。飲水が必要で18L入りの飲用水を購入し使っている。サラダ菜は水道で洗った後、飲用水で再度洗うといっていた。
 
次男宅では町の一人歩きは防犯、交通事故防止上厳禁だ。したがって歩いて行ける距離の他のアパートの友人宅や買い物へも、車がなければ行けない。これが嫁や子供たちにとって最も大きな不満な点で、イライラが募る最も大きな原因となっている。
 
ボクは昼間一人で歩き回ったが、大抵は歩道がない道だから車には十分気を付けねばならないし、町の所々に生える大きな樹木の下には、決まって数台の単車とうさん臭い若者らがたむろし客待ち顔でジロジロ見られるので、その前を通るのは余り気持ちの良いものではなかった。暗くなると、街灯が少ないから道路は暗くて防犯上も危険だそうだ。
 
道の路肩には沢山の小さな汚い屋台があり、色々な食べ物やちょっとした品物を安く売っているが、とても買う気にはならなかった。町を流れる川は雨季で増水していたが、水は真茶色に濁り沢山のゴミが流れていた。
 
教育面では、東南アジアの大抵の首都には「日本人学校」が設置され特に問題はないが、それは中学教育までで、高校生になると大抵は日本へ戻らねばならない。すなわち夫婦別居で母と子供が帰るか、ジジ、ババと暮らすか、下宿するか、全寮制高校へ行くかである。本人が望むなら面倒をみても良いとジジ、ババは考えているが、6年の孫は大阪の雰囲気が嫌いでその気はなく、全寮制高校への進学を考えているらしい。ちょっと可愛そうだが、子供の自立にはそれが一番良いかもしれないと言っておいた。どうなることやら・・・。
 
現地学校では、PTA役員が自動的に回ってき、来年はその役が回ってくるので、どうして行くかで嫁は非常に悩んでいた。第一、車がないと行けないし、車があっても簡単に運転できないし、タクシーでも渋滞で時間通りに往くのが難しいからだ。学校へは専用バスで普通なら3,40分で行けるのだが、大抵は渋滞で1時間以上かかり、大渋滞に巻き込まれると数時間かかるという。特に帰りは大渋滞に巻き込まれることが時々あるらしく、先日も帰るのが夜の8時を回ったそうだ。こんな時には、喉が乾いたり、腹がへったり子供たちも大変らしく、皆で金を出し合って水や食べ物を買って分けあっているらしい。そういう意味では、イジメなどなく上級生、下級生が一致団結して行動しているそうだ。
 
我々が行ったアンチョールというリゾート地はジャカルタ北部の海岸沿いにあり、主として現地人が行くリゾート兼遊園地といった所だ。中には大きなホテルが二つあり、どちらも満室だったが、客の多くは金持ちの現地人らしく、日本人や外国人は比較的少なかった。海水浴場では多くの人達が海に入っていたが、水が汚いのと大混雑でとても入る気はしなかった。海辺の木陰には車座になって、沢山の家族がひしめいていた。
 
広大なリゾート内にはマリーンスポーツ場、公園、博物館、水族館、ゴンドラ、ジェットコースター、観覧車、遊戯場などが点在するが、何処へ行くのも車が必要で、しかも休日の園内は大渋滞のため移動もままならぬ状態だった。水族館を覗いてみたが、人が一杯なのには閉口したし、水槽の濾過も余り良くなく、設備面でもこれといったものは見られなかっ
た。

 ジャカルタは雨季であったが、外にいても汗が吹き出すことはほとんどなく、日本の夏よりずっと居心地は良かったし、湿気もほとんど感じなかった。
 
交通渋滞、大気・河川汚染は発展途上国のどこの首都でも同じで大きな社会問題となっているが、裏を返せば、それらはその国の経済活力のポテんシャリティーを示す一つの重要なバロメーターであるとも言えよう。