アユの塩焼き

   アユといえば塩焼きが最も一般的だが、アユの塩焼きは簡単そうで実は中々難しい。串の
   打ち方、塩の種類、塩加減、焼き方、火加減等でまるでアユの味が違ってくる。

   魚焼き器のように水平な網に魚を置いて焼くと、余計な油が魚の下側に集まり火の上に滴り
   落ちて煙が出て燻されたり、油が燃え火力が強くなって焦げたりしてなかなか上手く焼けない。
   これは両面焼きでも同じことだ。

   アユの塩焼きは断然串焼きが美味い。これは他の魚でも同じだ。アユをそのまま串に刺して、
   パラパラっと塩を振って60度ぐらいの角度で炭の周りに串を立て、焦げないほどの火力でジ
   ワーッと約3,40分かけてゆっくり焼く。さらにできることなら、火の周囲に並んだアユを囲
   むように竹ヒゴに新聞紙を貼って覆いをする。そうすることでアユは裏側からも熱がまわり、
   余計な油は串を伝って下に落ち、煙もですほっこりと焼ける。これは紀の川筋の焼き方だ。

    ところが、串に挿したアユを火の周りに一定の角度を付けて立てるのがなかなか難しい。専
   門店ならそれなりの工夫もあるだろうが、素人ではそう簡単ではない。串を地面に挿したり、
   ブロックを利用したり、いろいろ工夫はあるだろうが、ボクは結局「アユの塩焼き器」*を購入
   し非常に便利に使っている。これは下の写真のごとく大きな皿状の陶器の周囲に穴が空いた簡
   単なものだが、家の中でも安全にでき非常に使いやすい。確か数十年前、山口から東京への飛
   行機の機内販売の広告を見て、ステンレスの串が10数本付いて結構高かったが購入したのを覚
   えている
(*「アユの塩焼き」参照。串焼ろばたコンロ(株)キンカ、現在でもあるようだ)

    ところでアユに串を刺すといっても、これには結構年期を要する。単に口から串を刺し真っ
   直ぐ尾まで串をさすだけではアユは固定されず、焼いているうちに串からアユがずれ落ちてく
   る。そればかりか、アユの姿が棒状で風情がない。口から串を挿してアユを少し捻りながら尻尾
   がぴんと上に跳ね上がるように串を打たねばならない。そうすることでアユが串からずれず固定
   され、しかも泳いでいるような躍動感ある姿で焼くことができる。

    また塩をふるにもちょっとしたコツが有る。背ビレ、腹ビレ、尻尾には化粧塩といって焦げ
   ないように少し多めに塩をふる。またアユにふる塩は、予め焼き塩にして4,50cmぐらい上
   から手首をふってパラパラっと振ると、むら無く上手にふりかけることができる。どれぐらい
   塩をふるかわ一口に言えない。塩の種類、結晶の大きさによって微妙に異なる。全て経験で会
   得するしかない。

   どんな塩を使うかも重要だ。精製塩は絶対駄目だ。ボクは結構塩に凝っていて、いろいろな
   産地の岩塩や天日塩を持っているが、要はできるだけ甘みがあり味の良い塩を使うことだ。今
   年の春、済州島で食べた魚の塩焼きの塩が、非常に甘みがあり円やかで美味しいのを発見し、
   その塩を買ってきた。塩の結晶が大きく細かな突起が出ている非常に軽い塩だが、そのままで
   は結晶が大き過ぎ湿気を含みやすいので、使う前にこれを電子レンジで乾燥させ、すりこぎで
   適当な大きさに潰してふりかけると非常に美味しい。済州島の焼き魚や焼肉は全てこの塩を使
   っているから美味いのだ。塩は水分を含みやすいから、ふりかける前に電子レンジなどで乾燥
   させると上手く万遍にふりかけられる。

    わざわざアユの腸(はらわた)を出して焼く人がいるが、これはアユの食べ方を知らない人
   だ。これではアユの旨味が半減する。アユは丸まま焼くのが普通で、アユ通はほろ苦いアユの腹
   が美味いのだ。腸が嫌な人や、砂を噛んいる時(砂を飲み込んでいることがある)には焼いてか
   ら除けば良い。最も鮮度が悪ければ話にならぬが、心ある釣り師は鮮度を保つのに並々ならぬ
   努力を払っている。

   アユの香りや味は川によって異なる。川の水質、温度、流速で餌になる苔の種類が異なるか
   らだ。何処の川へ行っても土地の人は「ここのアユが一番うまい」と自慢するのは面白い。今
   年家内と、九頭竜川と紀ノ川のアユを塩焼きにして食べ比べてみたが、正直な所、味や香りに
   大差はなかった。

     アユの塩焼きと言えば、毎年6月15日前後に嵐山保津川のアユの解禁に因んで開催される「嵐
   山若鮎祭り」を思い出す。嵐山の商工会「京都嵐山保勝会」主催で、渡月橋近くの中之島公園
   で毎年1,000匹のアユの塩焼きが無料で振舞われる。しかもこれには京都の一流料亭の料理人
   が大勢駆けつけ、壮観なアユの塩焼きが展開される。実はボクの小・中学校の友人のご主人が
   その会長をされている関係で、ボクと家内は2回ほどご招待を受け参加させていただいたが、
   そこで使われる炉は毎年改良に改良を重ね、やっと今の形になったと料理長からお聞きした。
   ボクが余り熱心に炉や串刺し作業を見ていたものだから、いろいろ塩焼きのコツを教えていた
   だいたのは、貴重な経験だった。

陶製のアユ焼き器
火を覆う覆い(自家製) 
3〜40分かけじっくり焼く   出来上がり
嵐山若鮎祭りのアユの塩焼き風景(H12.6.14)  
串刺し  塩ふり