カラスのモビング(mobbing;疑似攻撃)
 モビング(mobbing)とは、もともと「群をなして襲う」、「寄り集まってやじる」という意味の英語だが、最近問題になっている学校や職場での集団による個人に対するイジメもこれに該当する。

 こんな行為が鳥の世界でもしばしば見られるのは面白い。有名なのはカラスが集団で猛禽類(クマタカ、オオタカ、ハイタカ、トビ、ノスリ、チョウゲンボウなど)に対して行うモビング、小鳥がフクロウなどに対して行うモビングがそれだ。ボクも探鳥を始めてから何度もこんな場面に遭遇した。

  「冬の伊丹市内にある昆陽(こや)池には多くの水鳥が飛来する」と言うので、家内と二人で出かけた。家内は俳句、ボクは水鳥の写真撮影にそれぞれ夢中になって過ごした。
 池を一巡りし、昆虫館では蝶を撮り、駐車場へ戻ってきたが、池の縁に頑丈な三脚を据えバズーカ砲のように太長い望遠レンズを池の中の島に向けて陣取る写真家に出会った。一体何を撮るのだと聞くと、今オオタカが島に居て、カラスを襲って食べるのでその瞬間を狙っているとのこと。約150mほど離れた島の岸辺あたりを目を凝らして見ると、肉眼ではカラスの群れが騒いでいるのしか分らない。しかしじっとよく見ると、何かしら灰色がかった鳥がカラスに追い立てられているような様子だった。
 すでに夕闇が迫ってきており、30倍のズームがついたボクのコンパクトデジカメ(FinePix F600EXR)の画面で見ても余り良くわからない。
 兎も角倍率をいっぱいに上げ、木の柵にカメラを固定し構え、それらしき辺の何枚かの写真を撮った時、灰色の鳥が飛び立ち、それを追ってカラスも飛び立った。カラスはひつこく灰色の鳥を追いかけたが、次の瞬間、灰色の鳥とカラスが絡まりあった感じがし、夢中でシャーターを押し続けた。
 帰ってから写真をパソコンに落とし、拡大して見て驚いた。シャープではないが、明らかにカラスがオオタカにチョッカイをだして集団で脅し、耐えかねたオオタカが飛び立ったが、なおかつひつこく追ってくるカラスの一羽に一瞬襲いかかり、一撃を加えた様が何とか写っているではないか。
 ボクは言いようのない興奮とある種の満足感を味わいながら、何度も写真を見直した。

 カラスの集団に取り囲まれ追いやられるオオタカ。カラスはオオタカに迫ってはパッと逃げる
 あまりのしつこさに耐えかねオオタカが飛び立った。カラスが追跡する。
追ってきたカラスの一羽に突然襲いかかり一撃を加えた( 2012.1.28:昆陽池)
 
 チョウゲンボウを追うカラス:2017.7.29 大阪狭山市内の自宅から
 こうしたカラスのモビングは、ちょっと注意深く空を見上げていると結構遭遇するものだ。ボクの住む狭山市内でもよく見かけるし、先日は自宅からでも見られた。ボクが時々行く大阪城公園では、こうした光景が毎回何処かで繰り広げられている。さらにはカラスのこうした習性を逆に利用して、カラスを捕まえて食べるオオタカが居ると聞いて驚いた。

 モビングは何もカラスばかりではない。有名なのは昔テレビ放送で見たことがあるが、昼間フクロウを見つけた小鳥たちが、寄ってたかってフクロウいじめをする。夜、餌として狙われることに対する仕返しなのかもしれない。この習性を利用して、カスミ網の傍にフクロウを置き、いろいろな小鳥をおびき寄せて獲る方法があることも聞いた。このような場合、目的に合わせて囮(メジロ、ウグイス、エナガなど)を置くのが普通だが、フクロウだといろいろな小鳥が掛かるという。

 イジメは、何も人間社会に限ったことではないのである。しかし人と鳥の「イジメ」には決定的な違いがある。言うまでもなく、前者は「弱者」に対するイジメ、後者は「強者」に対するイジメである。こうして見ると、人間社会の「イジメ」は、鳥にも劣る行為だということが明確となり、実に恥ずかしい。人間は何時の時代からこうなったのだろう?