屋上菜園  
    40代のはじめ、現在の自宅の狭い庭に、家の増築と駐車場を作ったが、そのため庭がほとんどなくなり、それでは余りに悲しいので、駐車場は丈夫な鉄筋にし、その屋上をコンクリートで固め、防水を施し小さな階段を設け使えるようにした。

 その当時はサツキの盆栽に凝っており、屋上に雛壇状の台を作り、一時は数百鉢の主としてサツキを栽培していた。

 50歳の時、ボクは山口への転職が決まり、大阪の自宅は他人に貸し、将来退職後も山口で過ごすべく、現地にも100坪の自宅(中古)を購入した(都会と比べると田舎は土地が安い)。ところが退職して1年も経たぬ時、何気なくボクが「大阪に帰ろうか?」と言った途端に、家内が待ってましたとばかり「帰りましょう」と叫んだ。山口にも良い友達ができ、住み心地も良かったのだが、何しろ夫婦共々大阪生まれの大阪育ち、大阪には友達も断然多く帰る家もあることから、話は急に進み、都合よく家も売れ、急遽大阪へ戻って来た。

 帰阪後、ボクは淡水魚、特にランチュウに凝り、屋上に沢山の水槽を置き飼育・繁殖していた。ランチュウには相当凝ったが、品評会には出したことはなく、ただ繁殖を楽しみ自己満足していたに過ぎない。承知の通リ、一寸良いランチュウは、何千匹に数匹だけしかおらず、後のランチュウは何らかの方法で処分せねばならない。実はこの処分が大変で、年々多くの命を奪うことが苦痛でならなかった。すなわち、多くの命の犠牲の上に、優秀なランチュウ数匹が残るのである。

 これを毎年続けるだけの気力がなくなり、遂にランチュウ飼育は止め、家庭菜園に切り替えた。これが今から約5年前のことだ。

 実は菜園を始める前に近くに畑を借り、野菜作りを始めていた。キュウリ、トマ
ト、マクワ、スイカ、ナス等々試みたが、しばらくは収穫はなく、労ばかりが多かった。また畑では、クワやスコップ等々の盗難が多く、嫌気がさし、数年で止めた。
 屋上菜園は容器、土作り、肥料等々、結構費用はかかるが、何と言っても毎日身近に見て楽しめるのが良い。今でも一日数回見て楽しんでいる。しかし、最初はなかなか食べるまでには至らない。色々調べるのだが、なかなか上手く育たない。何と言っても土作りだ。病気や害虫の被害も結構多い。また一度使った土で、毎年繰り返し同じ野菜を作ることできない。

 正直なところ、数年間、失敗の繰り返しだったが、その中に何となくコツがわかって来て、ここ2年ほど前からやっとまともな野菜が採れようになった。ようは使用済みの土を、如何に再生し、如何に使い回しするか、如何に肥料を効率的に与えるか、である。土さえ良ければ、野菜は勝手に成長する。土の再生には石灰の他、鶏糞、牛糞、馬糞、腐葉土等々の有機物を上手く混ぜ使いこなすことだ。つまりは、ミミズが集まってくるような土作を作れば良いのだ。幸い、ボクは「豚肺虫症の免疫学的研究」という博士論文の研究で、ミミズの飼育をしていたから、どんな土をミミズが好むかよく知っている。ヘンな所で、ヘンなことが役立つものだ。

 ここ1,2年前から、やっとコツがわかって来た。要は如何に土を再生し使い回しするかだ。面倒なら毎回、安い園芸用の土を購入し、それに牛糞、鶏糞、腐葉土など適量加えればよい。魚は水が大事なように、植物は土が大事だ。農薬が濃すぎて何度か苗を枯らしたこともある。わかれば当たり前のことだが、慣れるまでこれがなかなか上手く出来ない。また植物は連作を嫌う物が多い。これは重要なことで、こういう基本的なことが分かれば、毎回美味しい野菜を作ることができるようになる。何事も理屈より実践だ。

 というと簡単そうだが、実はこれらの理屈は試行錯誤を繰り返して初めて身に付くものだ。最初は土も新しく案外上手く行く。その後が大抵問題となる。
 結局は、何事も慣れ(試行錯誤、経験)しかないね。


  ちなみに2021.5.22現在、野菜の品種;24種、果樹;6種 計30種である。