キバラタイヨウチョウの巣作り 
  2017年3月9日朝9時頃から、ボクはチェンマイ観光の同窓生ら8名とは別に、テェンマイ大学メーヒアキャンバスへ一人探鳥に出かけた。ここはチェンマイでも有数の探鳥地の一つで、どうしても一度様子を見たかった所だ。キャンバスは空港から西方約2kmにある広大ななだらかな山麓を開墾した地にあり、農学および獣医学部の施設が点在する。広大な敷地内には溜池、種々の植物の畑や雑木林の間に教育研究施設が点在し、その間を校内バスが走っており、全部を歩いて回るのは到底無理である。
 ガイドの話では辺鄙なところだから、往復乗り合いバスを雇った方が良いというので、運転手に13時に迎える来るように念を押し、9時頃から校内中央部の学舎周辺から探鳥を開始した。しかしがさしたる収穫もなく、重い機材と暑い日差しに疲れ果て、12時過ぎに元の場所に戻り、木陰に設置された数坪の屋根と椅子だけの円形休憩所でバスの迎えを待つことにした。辺りは見晴らしの良い広々とした芝生と点在する大きな木々の間に、休憩所を中心に東約30mにビニールハウスの細長い畑、西側に小さな研究室があり、その入口付近にシュロランの大きな株が数本植えてあった。
 休憩をしながらもあちこち観察していると、休憩所を中心に東のビニールハウスの入口右側に立つ小さな雑木と西側のシュロランとを行き来する小さな小鳥がいのに気付いた。小鳥はどうやらタイヨウチョウのようだった。タイヨウチョウは普通蜜を吸いに木の花に集まるのに、よく見ているとシュロランの太い下葉の隙間に入って何か獲っては、ビニールハウスの入口の木に戻ることを繰り返している。
 そこで先ずシュロランに近づき、約15mの距離から葉の隙間に入る鳥を撮影した。鳥はサゴヤシの下葉の葉と葉の隙間に入り込み、底の方で何かしている。隙間は暗く、肉眼では良く見えたかったが、ともかく連続撮影でめくら撮りをした。どうやら其処で餌を獲っているように思われた。
 シュロランの下葉に止まり奥の様子を伺う♀
   次いでビニールハウスの入口の木に接近し、鳥の行動を観察した。すると木の枝から垂れ下がる約30cmの細長い筒状の枯葉の塊がどうやら彼らの巣らしいということが判り、さらに4mほどまで接近し建物に隠れながら観察を続けた。鳥は後でキバラタイヨウチョウと判ったが、オスは巣に近づき辺りを警戒しているようであり、もっぱらメスがせっせと何か運んで来ては巣に出入りしているようであった。巣材の枯葉と枯葉の間は少し灰色の少し太い紐状のようなもので結ばれている。巣の入口は上部にあるようだったが、葉に隠れて詳細は観察できなかった。これらの行動からボクは彼らは現在営巣中で、雛の鳴く声こそ聞こえなかったが、現在子育て中と判断し、余り彼らを刺激せぬよう巣から離れた。
 巣の全容と見守る♀
 近くの木の枝から巣の様子を不安気に見守る♂
   自宅に帰って写真の整理をしてから、どうやらボクの考えは間違っていることに気が付いた。写真では葉の隙間に入り込んだ鳥は盛んに蜘蛛の巣の糸を引っ張ているようであった。初め蜘蛛の巣にひっかかった虫を獲っているのかと思ったが、蜘蛛の巣に多くの虫が捕らえれれている様子はなかった。
 葉の隙間は蜘蛛の巣だらけ
 はじめはクモの巣に引っかかった虫を取っているのかと思った
 しかし一連の写真で、鳥は明らかにクモの巣の糸を苦労して引っ張り取っている
  ここでハタと気が付いた。クモの巣の糸が巣材を繫ぐ糸ではないか? - - -とすると、巣での鳥の行動は給餌のためではなく、巣作り中の行動か? 改めて写真を検討した。
 明らかに巣材の木の葉の屑をくわえていた
   巣材を結ぶ材料はクモの巣の糸!  納得! ボクの疑問は一挙に解決した。鳥は探してきた葉屑を上手く取ってきたクモの巣を使いながら繋ぎ合わせ巣を作っていたのだ。
 恐らく専門家にとっては、「そんなことは当たり前で、いまさら素人が何を言っているのだ!」と笑われようが、ボクにとっては新鮮な発見であり、何にも代えがたい喜びであった。苦労した探鳥の甲斐があった。
 それにしても、こんなことを誰が一体彼らに教えたのだろう。自然とは不思議なものだ。